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概要

ho2vol113

事件簿より賃貸物件の 2入居者トラブル浜松支部 杉山 陽一マンションの真上に住んでいる人の迷惑行為の解決策は?vol.113 ホーツーあなたに寄り添う法律家7 静岡県司法書士会 相談者Aさんは大学生。大学まで徒歩3分の賃貸マンションに住んでいますが、半年ほど前から真上の部屋に住んでいるBさんのことで困っていました。 Bさんは、深夜から早朝にかけ、自分の部屋で大声を出したり、床を踏み鳴らしたりすることがあるからです。最近では、Aさんの玄関ドアの郵便受けのふたでガチャガチャと音を立てたり、玄関先で何かわめいたりするようになりました(以下、「迷惑行為」といいます)。よく聞いてみると、Bさんは、自分の部屋の床をAさんが下から棒のようなもので突っついている、と怒っているようでした。Aさんは「そんなことはしていませんよ」と言うのですが、Bさんは「うるさい、ウソつくな。お前は私が寝るのを邪魔してるんだろう」と怒鳴るばかりです。そのため、Aさんは、Bさんが迷惑行為を終えて部屋に戻るのを、自分の部屋の中でじっと待つしかないというのです。 Aさんは、大学まで徒歩3分のこのマンションを家賃もリーズナブルなので気に入っていて、できたら引越したくないと思っています。しかし「4月からは4年生で、卒論にも取り組まないといけないので、このままだったら引越しも考える必要がある。どうしたらよいのだろう」ということで相談に来たのでした。   Bさんに迷惑行為をやめてくれるように頼んで、素直に応じてくれれば一番よいのですが、なかなか難しそうです。Aさんによれば、Bさんの言っていることには辻褄が合わないことが多く、普通の話し合いは難しそうだからです。 となりますと、あとは大家さんに何とかしてもらうことを考えるしかありません。ここで、参考になる判決があります。それを要約すると「住居としての建物の賃貸借契約においては、賃貸人(大家さん)は賃借人に対し、その建物を住居(これには、住居としての一定の平穏さが求められている)として円満に使用できる状態にして貸す義務がある。さらに、貸している期間中もその円満な状態が維持されるようにする義務がある。もし、その円満な状態が第三者の侵害行為により妨害されたら、大家さんはその妨害を排除するなどして、賃借人がその建物を円満な状態で使用できるようにする義務がある」というものです(大阪地裁平成元年4月13日判決)。  Bさんの迷惑行為は、まさに、この判決がいうところの、大家さんがAさんに対し提供すべき「円満に使用できる状態」への「第三者の侵害行為」であり、一般的に近隣住人にとって我慢の限界を超える程度のものと思われます。 とすると、大家さんとしては、Bさんに迷惑行為をやめるよう説得するなどし、Bさんがそれに応じないのであれば、Bさんとの建物賃貸借契約を解除して明渡しを求めるべき立場にあることになります。 ということで、私はAさんの代理人として、大家さんに対し①Bさんの迷惑行為をやめさせてほしいこと②Bさんが迷惑行為をやめなければ、Aさんは建物賃貸借契約を解除すること③引越代や慰謝料などを請求することを伝えることにしました。 数日後、大家さんから、Aさんの状況に対し理解を示す電話があり、大家さんもBさんのことで困っていることが分かりました。私は、大家さんにはこの状況の改善義務があることをあらためて伝え、しばらく様子をみることにしました。 そして、それから約2か月後、私はAさんからの報告で、Aさんの困りごとが、大家さんの努力とBさんの親族の協力により、Bさんの建物からの円満退去で解決されたことを知りました。 Aさんは、この春、無事大学を卒業し、新社会人としてがんばっています。