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概要

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 1 契約の本質を考える 有料老人ホーム入居契約は、建物賃貸借契約と介護等のサービス提供契約が複合した契約と考えられます。また、施設に入居しようとする高齢者のほとんどは、余生を施設で過ごすことを希望されているでしょう。 つまり、多くの場合「その施設で死ぬまで身の回りの世話が受けられること」こそが、契約の本質といえます。 2契約条項は  自由に決めてよい? ところで、いくら利用者にとって不利益な条項だとしても、それが契約書に明示されており、十分に説明を受けて納得してサインをしているのであれば、何の問題もないではないかとの疑問も生じることでしょう。 しかし、事業者・個人間の契約(BtoC契約)では、専門知識に乏しく契約交渉力も劣る個人を保護するため、一定の契約条項については、たとえ契約書に明示されていても無効となります。 3不当条項規制 このような法律の規定を「不当条項規制」とよび、「消費者契約法」という法律で無効となる契約条項が列挙されています。入居契約もBtoC契約ですから、消費者契約法からみた契約条項の検討が必要となるのです。 4入居申込金不返還条項 利用者から解約申入れがあった場合に、施設側が入居申込金を返還しない特約をよく目にします。 しかし、入居前の解約であれば施設側に何の損害も生じていないのが通常ですので、入居前解約の場合の不返還条項は無効となります。 また、入居後の解約であっても、施設側に生じる損害を超えてまで返還しない条項は、やはり無効です。 5 入居一時金償還条項 入居時に施設側が高額の一時金を受領する契約も少なくありませんが、入居と同時に数十%を初期償還したり、一年目に五〇%、二年目に七〇%などと入居後早期に大部分を償還したりすることで、利用者からの解約申入れに際し施設側の返還義務を軽減するケースが目立ちます。 しかし、入居一時金は賃料や介護サービス利用料などの前払金と考えられていますので、その償却は本来、契約締結時に予定していた入居期間に応じて均等であるべきです。したがって、利用者に不利となる不均衡な償還条項もまた、不当条項に該当します。 6免責条項 介護中に施設側の落ち度により利用者にケガを負わせてしまったようなケースで、施設側の責任を免除したり軽減したりする条項も目にします。 消費者契約法では、事業者の損害賠償義務を減免する条項の多くを不当条項としていますので、このような免責条項も無効となる場合があります。 なお、全部免責条項だけでなく、「保険の範囲内で損害賠償に応じる」などの責任軽減条項も含まれます。 7契約解除条項 「1」で確認したように「終身契約」を前提とし、人生の最期まで面倒をみてもらう代わりに高額の費用を支払う入居契約では、施設側からの契約解除は極めて例外的なケースに限定されるべきです。 したがって、一般の賃貸借契約でみられる「数か月の賃料滞納があった場合、貸主は無催告で契約を解除できる」というような条項も、有料老人ホーム入居契約では無効となります。 8あらゆるBtoC  契約に適用 ここで検討した「不当条項規制」は、施設入居契約に限らずあらゆるBtoC契約に適用されます。個人顧客との直接取引を業態とする事業所におかれては、この機に契約条項の精査をお勧めいたします。 司法書士は貴社のリーガルチェックをお手伝いすることもできますので、ぜひご活用ください。ビジネス法務Q2A浜松支部中里 功Q 弊社では、新規事業として有料老人ホームの経営を中心とする介護ビジネスへの参入を検討していますが、入居契約書を作成するうえで注意すべき点があればご指摘ください。  入居申込金や入居一時金に関する条項、入居者のケガなどの場合における免責条項、契約解除条項などが入居者にとって不利益な条項と評価される場合、たとえ契約書にこれらが明示されている場合でも条項そのものが無効となる可能性がありますので、注意が必要です。有料老人ホームの入所契約書vol.117 ホーツーあなたに寄り添う法律家13 静岡県司法書士会